「まだ残っているはず」の材料が、診療の途中で切れてしまう。歯科医院で起きやすいこのつまずきを、どこまで管理するかの線引きと、記録の仕方から見直します。
朝の診療前に棚を見て、「この印象材、残り少ないな」と発注ノートに書く。週に何度か、受付のスタッフがノートを見てディーラーに発注する。
この流れは、書き忘れや見落としがひとつあるだけで止まります。まずは、歯科医院の在庫管理でつまずきやすい点から見ていきます。
印象材、石膏、シーラント、コンポジットレジン、技工材料。歯科医院が扱う材料は種類が多く、同じ用途でもメーカーや色、サイズが違えば別の品になります。
名前だけで記録していると、似た品を取り違えたり、同じ品を別の名前で書いたりしがちです。
材料を実際に使うのは歯科衛生士や歯科助手、発注するのは受付や事務のスタッフ。そんな分担の医院は多いはずです。
「残り少ない」に気づいた人と発注する人が別なので、その間の伝言がひとつ抜けると、発注が漏れます。
治療の途中で「あ、ない」と気づいても、その場で代わりは用意できません。治療を中断して、患者さんに謝ることになります。
在庫切れが、そのまま診療に響きます。
印象材やレジン、麻酔薬など、使用期限のある材料も少なくありません。多めに買っておけば安心、とはいかず、使い切れずに期限が切れることもあります。
「グローブやマスクも、ひとつずつ数えて管理するべき?」。在庫管理を始めるときに、迷いやすいところです。全部を同じ細かさで管理しようとすると、記録が続きません。
判断の物差しは2つです。
この2つで、管理の細かさを分けます。
| 区分 | 例 | 管理のしかた |
|---|---|---|
| 診療材料・薬 | 印象材、石膏、コンポジットレジン、麻酔薬 | 数を記録し、発注する目安の数(発注点)を決める |
| 汎用の消耗品 | グローブ、マスク、紙コップ、エプロン | 箱単位でざっくり記録し、発注点だけ決める |
| 機器 | ユニット、オートクレーブ、レントゲン装置 | 在庫ではなく固定資産。固定資産の台帳で管理する |
グローブやマスクも、切れたら診療が止まるので、管理の対象には入れておきます。ただし、1枚ずつ数える必要はありません。「残り2箱を切ったら発注」のように、箱単位の発注点を決めておけば十分です。
日々の管理とは別に、決算では期末に残っている在庫を数え、その金額を棚卸資産として計上します。ここでの線引きは、日々の管理の線引きとは基準が違います。
診療材料・薬 は、期末に残っている分を数えて、棚卸資産として計上するのが基本です。
汎用の消耗品 には、例外の扱いがあります。グローブやマスクのように、毎年おおむね同じ量を買い、日常的に使う消耗品が対象です。買った年(法人は事業年度)の経費にする処理を毎年続けていれば、期末に数えなくてもよいとされています(法人は法人税基本通達2-2-15、個人の医院は所得税基本通達37-30の3)。期末の直前にいつもより多く買ったり、年によって処理を変えたりすると、この扱いは認められません。
機器 は、棚卸資産ではなく、減価償却資産として扱います。ふつうは耐用年数に応じて、何年かに分けて経費にします。1つあたり10万円未満のもの、または使える期間が1年未満のものは、使い始めた年に全額を経費にできます。10万円以上20万円未満なら、3年に分けて均等に経費にする方法も選べます。青色申告をしている中小企業や個人の医院には、より高い金額まで一度に経費にできる特例もあります。ただし、金額の基準や期限は改正されることがあります。
どの処理を選ぶかは、医院の経理の方針や、法人か個人かで変わります。実際の扱いは、顧問の税理士に確認するのが確実です。
決算の棚卸しの全体像は、「棚卸しとは?完全ガイド」の「税務と棚卸し」の章にまとめています。
発注ノートの弱点は、気づいた人が書かない限り、誰も気づけないことです。管理の対象を決めたら、次は「いくつまで減ったら発注するか」を、アイテムごとに決めます。
発注点の目安は、ディーラーに発注してから届くまでのあいだに使う量に、少し余裕を足した数です。たとえば週に2箱使うグローブで、届くまで3日かかるなら、「残り2箱を切ったら発注」といった具合です。
発注点を決めておけば、「残り少ないかどうか」を、人の感覚に頼らずに判断できます。
使用期限のある材料は、発注点を高くしすぎないようにします。届いた品は奥に置き、期限の近いものを手前に出して先に使えば、期限切れも減らせます。
ここでは、私たちが開発しているクラウド在庫管理アプリ「nanco」を使うと、歯科医院の在庫管理がどう変わるかを紹介します。
アプリを開いてすぐに在庫数を変更できます。バーコードを読み取れば、どのアイテムかを探す手間もかかりません。院内にタブレットを1台置いて共用にすれば、使った人がその場で記録できます。
在庫が設定した数を下回ると通知されます。決めた発注点を在庫アラートの数に設定しておけば、発注ノートを見返さなくても「そろそろ発注」に気づけます。
置き場所や材料の種類ごとにフォルダを作って整理でき、アイテムは写真付きのグリッドで表示できます。アイテムには、使用期限やディーラー名などの項目(属性)も自由に追加できます。
誰がいつ在庫を変更したかが記録に残り、変更の理由もメモで残せます。申し送りや引き継ぎにも使えます。
アイテムに単価を登録しておくと、フォルダごとに在庫の合計金額を確認できます。期末に棚卸資産の金額をまとめるときの手がかりになります。
nancoは、初期費用ゼロ・年払いで月額3,480円(税込) から利用できます(スタンダードプラン)。月払いの場合は月額5,980円(税込)です。
ユーザー数はどのプランでも無制限です。人数が増えても料金は変わらないので、スタッフ全員で在庫情報を共有できます。パソコンでもスマホでも使えます。
まずは、切れたら診療が止まる材料をいくつか選んで、発注点を決めるところから始めてみてください。