導入
仕入れのタイミングや数量に、つい迷ってしまう。
「最近よく売れている気がするけど、あと何個仕入れたらいい?」
そんな問いに、きちんと答えてくれる仕組みがあったら――そう思ったことはありませんか?
クラウド在庫管理アプリ「nanco」では、商品ごとの入出庫が記録されるだけでなく、いつ・何個・誰が・なぜという情報まで履歴として自動的に蓄積されていきます。
この「履歴データ」が整っていることで、後からデータを活用した分析や判断がしやすくなっているのがクラウド在庫管理アプリ「nanco」の大きな特長です。
たとえばこの履歴データを使えば、「なんとなく」の仕入れ判断が「根拠ある予測」に変わります。季節変動や売れ行きの傾向をつかみ、「いつ・何を・何個」仕入れるべきかを、より適切に見極めることができるようになります。 今回は、ChatGPTを使って在庫履歴データを分析し、今後の仕入れについて提案してもらう方法をご紹介します。
前準備
その1: 在庫履歴データのダウンロード
分析には、クラウド在庫管理アプリ「nanco」の在庫数の履歴データを使います。
(クラウド在庫管理アプリ「nanco」をお使いでない場合は、手間はかかってしまいますが、Excelを使って同様の形式で在庫変更の履歴を手動作成したデータでも分析に使えます。)
履歴データは、アイテムごとにダウンロードすることができます。
アイテム詳細ページ内、「統計」パネルの右下にある「すべての履歴を表示」をクリックして、在庫変更履歴を表示します。

「在庫変更履歴」パネルの左上「ダウンロード」ボタンを押すと、履歴データをExcel(もしくはCSV)ファイルでダウンロードできます。

エクスポートした履歴データをExcelで開くと、下の画像のように日時・在庫数・増減・変更理由の情報が一覧で入っています。このデータを使用していきます。

その2:フォントデータのダウンロード
ChatGPTでグラフ表示するときに、日本語のフォントデータが必要になります。
今回は下記のフォントを使用しました。
https://fonts.google.com/noto/specimen/Noto+Sans+JP
ダウンロードしたデータの中に含まれるNotoSansJP-Regular.ttfファイルを後ほど使用します。

ChatGPTで分析!
それでは早速ChatGPTで分析する方法を紹介していきます。
ログインする
ChatGPTで外部ファイルのデータを添付したり、分析を行うためにはChatGPTにログインする必要があります。Googleアカウントやメールアドレスで登録してログインしてください。

モデルを選択する
ChatGPTには、能力の違うさまざまなモデルが用意されています。

在庫データの分析におすすめなのは、ChatGPT 4oというモデルです。
回数制限がありますが、無料ユーザーでも使用できます。
-
利用回数の目安:
無料プランではたとえば「10回/5時間」や「10ターン/3時間」といった制限があると報告されています。 -
制限を超えると、GPT‑4oミニ(軽量モデル)や別モデルに自動的に切り替わります。
フォントの指示
はじめに、準備の際にダウンロードしたフォントデータをChatGPTにアップロードします。
ChatGPTの画面に、NotoSansJP-Regular.ttfファイルをドラッグ&ドロップし、「これからグラフを表示する場合は、このフォントを使用してください」と入力します。


これをしておくと、後でグラフが生成されたときに、日本語が文字化けせずに表示されるようになります。
分析の指示の仕方
それでは、準備も整ったので分析の指示を与えてみます。
今知りたいのは、季節変動や売れ行きの傾向をつかみ、「いつ・何を・何個」仕入れるべきか、判断するためのヒントです。
そこで、下記のようなプロンプトを与えてみます。
私は雑貨屋の店長です。
あなたは、経営コンサルタントで仕入・在庫管理のアドバイスを請け負っています。これから渡す商品のデータを読んで、今後、いつ何個仕入れた方が良いか、アドバイスをしてください。その根拠も説明してください。
商品名:竹炭入り消臭サシェ 価格¥660 原価¥198 リードタイム7日

プロンプトのポイント
精度の高い分析を行うためには、プロンプトの書き方がとても重要です。以下のポイントに注意してプロンプトを作成します。
ポイント1:役割の設定
ユーザーである自分の説明「雑貨店の店長です。」と、ChatGPTの役割「経営コンサルタント」を簡単に明示することで、言葉遣いや内容の詳細度・難易度を大まかに調整することができます。
ポイント2:追加情報
価格や原価、リードタイムの情報はExcelファイルには含まれていないので、補足情報としてプロンプトに含めています。プロンプトから情報を付加することで、ファイルのデータと組み合わせて分析に利用してもらうことができます。
ポイント3:具体的な要求
知りたいことが具体的に決まっているときは、できるだけ具体的に伝えます。今回は、「いつ何個仕入れた方が良いか」を提案してほしいということと、「根拠も示してほしい」という点なので、しっかりとその旨を記載します。
データの与え方
前準備その1でダウンロードした在庫データのExcelファイル(もしくはcsvファイル)をChatGPTの画面にドラッグ&ドロップします。 (※本記事のデータは2024年1月~7月中旬の在庫履歴になっています。)
結果の確認
それでは、ChatGPTの分析結果を見ていきましょう。2024年1月から7月15日までの履歴データを渡しています。今日を7月15日として、これからの仕入れについて提案してもらっています。
こちらが「竹炭入り消臭サシェ」の月別販売数のグラフです

月別販売数(2024年1月〜7月15日まで)
月 | 販売数 |
---|---|
2024-01 | 10個 |
2024-02 | 13個 |
2024-03 | 12個 |
2024-04 | 13個 |
2024-05 | 49個 |
2024-06 | 55個 |
2024-07 | 15個(7月15日まで) |
■ 最新販売状況に基づく仕入れアドバイス(2024年7月15日時点)
✅ 現状の販売トレンド:
- 5月:49個
- 6月:55個
- 7月前半(15日まで):15個(=月換算で約30個ペース)
→ 明確な需要の急増が見られます。月10個ペースだった1〜4月と比べて約3〜5倍に拡大。
✅ 在庫運用の観点から見ると:
- リードタイム:7日(=1週間先を見越した補充が必要)
- 現在の販売ペース:週7〜9個
- 安全在庫ライン:最低でも2週間分=約15個以上は必要
- 過去の在庫データより、在庫数は現在10〜20個台を推移しており、逼迫リスクあり
■ 仕入れ提案:
● 次の仕入れ日:
- 7月15日(月)今日、または16日(火)中に発注を推奨
● 仕入れ数量:
- 15個以上(推奨:20個)
● 補充ルール:
以下のような運用をおすすめします:
条件 | アクション |
---|---|
在庫が15個未満 | 直ちに15〜20個発注(1週間後の販売分) |
需要が継続する場合(7月下旬も15個以上売れたら) | 8月初旬に再度15〜20個の補充 |
8月で販売が鈍化した場合 | 補充間隔を3〜4週に変更 |
■ 備考:
- この急増がブーム・SNSバズ・ギフト需要など一過性のものである可能性もあるため、在庫の積み増しは慎重に段階的に行いましょう。
ChatGPTはまず、月別の売上グラフや販売数の表を提示してくれました。
これにより、在庫の動きや販売傾向が一目で把握できる「見える化」が実現します。
そのうえで、「現在はどのような販売ペースなのか」「仕入れのタイミングはいつが適切か」「何個仕入れるべきか」といった具体的な判断材料を、補充ルールとして分かりやすく提案してくれました。
また、現在の売れ行き急増が一過性である可能性もあること、8月以降鈍化した場合のアクションを示唆しています。このように複数のプランを示してくれることも特筆すべき点だと思います。
これだけでも仕入れ判断のヒントにはなるかと思いますが、箇条書きだと少し根拠がわかりづらいと感じる場合もあるかもしれません。
説明形式の調整
結果の提示の仕方が、箇条書きが多くて分かりづらさがあったので、文章形式でも解説してもらうように指示してみました。
「箇条書きが多くて少しわかりづらいので、経営コンサルタントとして、解説文を書くように解説してもらってよいでしょうか? 要点は分かりやすく小見出しにして、それに対して解説を行ってください」

そして、その結果はこちら。
販売数が急増している兆し
2024年1月から4月までは、月あたり10〜13個という安定的な販売数が続いていました。しかし5月以降、状況は大きく変わります。5月には49個、6月にはさらに増えて55個の販売実績が記録されました。7月もまだ月の半分が経過した時点で15個を超えており、このままのペースで推移すれば、月末には30〜40個前後の販売が見込まれます。
このように、5月以降の動きは明らかにこれまでと異なる傾向を示しており、需要の増加、もしくは一時的なブームの可能性を示唆しています。
現在の販売ペースからみる在庫の必要量
現在の販売ペースは、週あたりに換算すると7〜9個です。これに対して、商品のリードタイムは7日、つまり1週間かかるため、1週間分の在庫が途切れないよう備えておく必要があります。
また、実店舗における販売では突発的な需要や、まれに起こる複数個まとめ買いも考慮すると、2週間分、すなわち最低でも15個前後の在庫を常に持っておくのが望ましいといえます。現在の在庫数は、販売数とのバランスから見てややギリギリの水準で推移しており、仕入れが遅れると在庫切れを起こすリスクがあります。
今すぐ仕入れを行うべき理由
7月15日時点で、すでに15個以上が売れており、今後も同等のペースが続くことが予想されます。つまり、あと1〜2週間以内に再び15〜20個が売れる可能性が高く、在庫が枯渇する前に補充しておく必要があります。
このような背景から、今すぐ15〜20個を仕入れることが妥当です。仕入れが遅れると、せっかくの需要を取り逃すだけでなく、売場の信頼感も損なわれかねません。
今後の補充戦略について
販売が高水準で継続する場合には、8月上旬にも同程度の補充を行う必要があります。ただし、5〜6月の急増が一過性のものだった場合、8月に入ってから販売が鈍化する可能性もあります。したがって、仕入れは段階的に行い、売れ行きを都度確認しながら調整するのが理想です。
在庫過多を避けつつ、需要を逃さない。これが今のフェーズにおいて求められる運用です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。いつ・いくつ仕入れればよいか、具体的な提案があり、その根拠もデータに基づいて説明されるため、実際の仕入れ判断に直結する「実務レベル」の情報を得ることができます。まさに、数字をもとに経営判断を下す――その最初の一歩を、AIが力強く後押ししてくれるような感覚です。
そして何より、こうした分析は「難しいもの」ではなくなりつつあります。形式を少し工夫するだけで、箇条書き中心の要約型も、読み物として流れるようなレポート型も、自分にとって最も理解しやすいかたちで結果を得ることができるという点は、AI時代ならではの大きな利点です。
今回は、最もシンプルな例として「単品在庫」に絞って解説しましたが、ここから一歩進んで、複数の商品を対象にした仕入戦略の全体最適化にも挑戦していきたいと思います。
次回は、商品群ごとのデータをAIに読み込ませて、「いつ、何を、何個仕入れるべきか?」を一括で判断させる方法をご紹介します。
注意点
気を付けなければならないこととしては、AIは初歩的な凡ミスをする場合もあるということです。今回の分析の場合も、グラフでは5月・6月は明らかに20個以上売れているのに、販売傾向の表では5月が9個、6月が10個と誤解するミスが発生しました。
グラフと表を表示することで、こうした凡ミスに気づきやすくなります。
もしAIが明らかに間違っていることに気づいたら、

このように、具体的に指摘することで、修正した内容で再度分析結果を出力してくれます。